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どこかに行きたい

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沼津アルプス

去年の三が日に『天城山』に登った。

別にわざわざ今年も正月に登らなくてもいいんだけれども、家族もなんか『どうせお父さん山行くんでしょ』みたいな雰囲気になっているので、オレ自身もその気になってみた。どうせいてもゴロゴロしてるだけだし。昨日までのごちそう週間の食べ過ぎでだらしない体をメンテナンスしないとね。おなか回りが溶けかかったソフトクリームみたいにベルトに乗っちゃってるし。

ではどこへ行こう。高い山は寒いし雪が積もってそうだし、できれば気軽にサクッと行きたいし。
そう思って最初に目的地に設定したのは『金時山』だった。でも少し調べるうちに金時山の山行時間は3時間程度しか無さそうなのに気が付いた。ヘタすりゃ2時間くらいしかないかもしれない。
ちょっと物足りないなぁ…。
3時間でも充分なんだけど、できれば5時間くらい歩けたらいいなぁ…。そう調べていくうちに、ふと過去にどこかで聞いた山の名を思い出した。
それが『沼津アルプス』だった。
○○アルプスって日本中どこにもあるらしいが、本場南北アルプスには到底かなわないだろうなんて正直小馬鹿にしてしまっている自分がいた。
複数の山が連なっているため、縦走ができる。すべての山を縦走すると6時間かかるそうだ。
お!ちょうどいいじゃん!
そんな理由であっさりとこの沼津アルプスに決定したのである。


今年はさすがに三が日からは外れたけれど、正月気分も抜けない四日にここへ来た。
朝の4時に起きて簡単に支度をして沼津へ向かったが、案外沼津が近くて このままでは真っ暗なうちに到着しそうなので途中のコンビニでけっこう時間をつぶしたのを覚えている。


何軒かコンビニに寄って時間をつぶし、6時半ころに香貫山の山腹にある駐車場に到着した。
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朝の散歩で歩いている人が多い。近所の人ばかりだ。姿格好が寝巻の様な普段着だし。
オレの格好はバッチリ山々はしてないんでけど、背負ってるザックが『山登りです!』と主張しているので、ちょっと恥ずかしい。

沼津アルプスを縦走すると6時間かかる。周回コースは無い。なので同じルートを往復するのは現実的ではない。でもありがたいことに沼津アルプスをぐるっと囲むようにあちこちにバス停があるので最初の場所にはバスを使って戻ってこれる、かなり便利な立地条件だったのである。

オレの予定ではここの駐車場から縦走していき、最後の大平山まで行って下山後バスに乗る。という計画を立てていた。

空を見上げると少し雲が広がっている。このままここから出発すると、富士山が見える山を歩いている時に肝心の富士山が雲に覆われていて、後半の富士山が見えにくくなる角度になった時に晴れそうな雰囲気の空だ。
だったらスタートとゴールを逆にしてみよう。
最初にバスに乗って大平山の登山口に下車し、そこから縦走して自分の車に帰ってくる方法に変更してみよう。ホントに急遽の変更であった。

赤線が徒歩、青線がバス路線
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山腹の駐車場から広い山道を歩いて下っていく。途中、地元の人達とすれ違う。ウォーキングの人だったり、犬の散歩だったり。みなさんの格好とオレのザックを背負っている格好のギャップになんだかちょっと恥ずかしかった。

山を下るといよいよ住宅街。
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なおさら恥ずかしくなってきた。沼津駅からそんなに遠くないし、すぐそこに市役所と裁判所があるから街中と言ってもいいだろう。

国道414号の大通りまで出てきた。
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『裁判所前』の停留所から乗るつもりが一つ北側の『市役所前』まで来てしまった。同じ路線だから別にいいが、急な変更で何時何分にバスが来るのか調べてないから少し心配になった。
停留所の時刻表を見たら、ここからは3つの路線があるようだ。
え!どれに乗ればいいんだろう…。
最初の予定では帰路にバスを使う予定だったので、『沼津駅行き』に乗れば間違いなく帰ってこれるのはわかっていた。しかし逆向きになると何処行きに乗ればいいのかを調べていなかった。
路線別の時刻表をながめている時にバスが来てしまい、バス停に一人しかいないオレの姿に気が付いたのか減速し始めている。
まずい! 詫びるように手を上げながらバス停から飛びのいて離れた。それを見たバスは減速をやめ、加速していった。

いや、べつにバスを停めて、運ちゃんに聞いたっていいんだけど、とっさ過ぎてそこまで頭が回らなかった。
仕方がないのでスマホを取り出し、伊豆箱根バスのホームページを開いて『市役所前~多比』間の路線を探した。ホント便利な世の中になったもんである。

あれ!さっきのバスでよかったみたい。
04分出発のバスだった。次が24分。まあ、待ちが20分程度ならヘーキヘーキ。停留所のベンチに腰を下ろして午前7時過ぎの街の景色をながめた。目の前に市役所がある光景なんだけど人影がまばらだ。
まだみんな正月モードなのか。
バスがやってきて乗り込んでみても、バスの中はガラガラだ。世間はまだ休みなのか、駅から南下するこの路線がただ乗車率が低いだけなのか…。

けっこうな時間バスに揺られて降りたバス停は『多比』。
目の前に岸壁があってすぐその先が海だ。おっ、海抜0メートルから登山開始って気分いいなぁ。

で、登山口って…どこ?

うろうろ探し回る。バス停のあった国道414号線は歩道が狭いうえに車がビュンビュン往来していてめちゃくちゃ怖い。横丁に延びる道を覗いたり今来た道を戻ったり、うろちょろしていて完全に不審者である。新年早々通報されたくないので探索もそこそこに適当に山道に入ってしまった。
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広い道だし、この先に広い農道が見えるから、たぶんあってるよ、きっと…ちょっと不安だけど。
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広い農道で歩きやすい。時々景色が開けて向かう山の山頂が見えたり、漁村や海が見えたりしてテンションが上がる。

途中、農道から見下ろせる斜面に不法に投棄された大量のごみや家電類があった。
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しかも1か所だけではなく、あちこちだった。
なんか見ていて悲しい気分になった。
大昔に代執行でこういうのを片付ける仕事をしたことが幾度となくあるのだが、片付けるのはホント大変である。急斜面をテレビ担いで登ったり、ロープで結んだ冷蔵庫を途中の木を避けながら引っ張り上げたり。
坂の上から捨てるのは一瞬、片付けるのは膨大な時間。あまりの苦労に目の前に加害者がいたら感情的になりそうだ。手が出るかも。
そんな大昔の感情を思い出してしまう、悲しい景色だった。

そんなことを考えながら歩いていたら、農道の下の斜面の藪がガサガサ鳴ったと思ったとたん、藪の中から猪が飛び出し、農道を横切って上の斜面を駆け上がって行く。
おー!猪だ!
なんて思う間もなく藪から次々と猪が飛び出し、農道を横切っていく。時折、ボフォ!と低周波な声を出す。あまりにも不気味な低周波で恐怖を覚えた。
ちょっと離れてるから正確にはわからないけどオレの腰くらいの高さの体高だろう。黒い。なんか重量感がある。
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群れなのか、何頭も何頭も飛び出してくる。8頭くらいなのか10頭くらいなのか。ただただ呆然と眺めるだけで、ハッと我に返り、カメラに手をかけた時には最後の一頭が通過した後だった。
あたりに静寂が戻る。心臓がドキドキ速い鼓動をしているのがわかった。怖い。

だれかと一緒だったなら無言で半笑いな顔を見合わすんだけど、見合わす相手がいないので固まったままだ。

一頭でもたぶん太刀打ちできないのにあの数に囲まれたらたぶん死ぬんじゃないかなぁ…噛まれるというより食われちゃいそう。

3分くらいその場で考えた。猪の群れは今から向かう山頂の方へ登ったので再び遭遇する可能性は高い。恥ずかしながらこの山をナメていたせいもあって登山届を出していない。

帰ろうかな…

本気でそう思った。何かあってからでは遅い。”イノシシ野郎が本物の猪に襲われて葬式を出している”だなんて三代先までの恥である。でもなぁ…。
恐る恐る前へ歩き出す。耳を澄ませて最大限の警戒態勢をとった。小鳥が藪の中を歩くカサカサという音にもビビっていた。
突然猪とエンカウントしたらどうしよう…。ストックで応戦するか…でも一頭ならまだしもあの数でストック一本だなんて無理ゲー過ぎる。
声で威嚇しよう。でも突然出てきたら変な声出そう。キョェェエエエエ!
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そのうち農道がどんどん狭くなって最終的には肩幅程度になり、ますます猪有利な状況になっていく。
『あの木は登れるな』
移動するたび、登って避難できそうな木をいちいち確認しながら歩く。

道が不明瞭になり、傾斜もついてきた。
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なんかこの道違うような気もするんだけど、誰かが歩いたような跡もあるから たぶん登山道なんだろう。
不安になりながらも、尾根まで出ればしっかりした道があるだろうと期待して、不安ながらも登っていく。その時、とある木をつかんだ瞬間、
あ゛い゛っ てぇ !
手のひらに思いっきり激痛が走った。つかんだ木を見てみると
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なんだこれー!
完全に罠じゃん!もー!

手袋を外して手のひらをのぞき込んでケガをしてないのを確認した後、手をブンブン振った。

もう完全にオレ拒まれてるよ…この山に…。




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by moriyart | 2017-01-07 16:29 | 沼津アルプス