どこかに行きたい

moriyart.exblog.jp

その4(ジャンダルム・前穂)

二日目。

4時前からあちこちのテントからゴソゴソと音が聞こえる。
自分もどうしようか悩んだが、それでもせめて明るくなり始める 日の出前には行動したいのでぼちぼち準備した。
朝飯はマーガリン入りレーズンパンとたまごスープ。調理の時間がもったいないから湯を沸かすだけのヤツ。寒い朝に暖かいスープってホッとする。
e0284726_14113586.jpg

テントを撤収し、山荘まで来ると、山荘前でご来光を見ようとしている人が大勢いた。
風もなく、そんなに寒くない上に、晴れている。

…晴れている?

あれ?晴れてる。どの山岳予報も曇りだったけど。まあもうすぐ曇るとは思うけど、のっけから曇ってるよりかはまだマシかな。山の神様がちょっとだけボーナスタイムをくれた様だ。それなら期待しすぎず行きますかね。
e0284726_1412261.jpg


5時過ぎに山荘を出発。
e0284726_1412147.jpg

梯子の下から山荘を見下ろす。小屋前の小さな人影がいっぱい動いている。

奥穂の脇からジャンダルムが見えてきた。
e0284726_14122898.jpg

気が締まる。今からオレはあそこに行くのか。いや、行けるのかな。 ここまで来て今さらそんな事を思っていた。

奥穂の山頂が見えてきた。
e0284726_14124062.jpg

予想通り曇ってきたが、まだ高曇りなので山容は見える。空気が薄いせいなのか、疲れが取れてないのかわからないけど、テン泊装備を背負って進むのがけっこうキツイ。ペースが上がらない。こんなんで大丈夫だろうか。
e0284726_14131438.jpg

山の裾から登ってきた風が山頂を通過する時に凝結して雲になっている。
旗雲なのかなぁと、ぼーっとながめていたら、あれ?気が付いた。あのずーっと向こうに見える山…黒部五郎岳っぽい。あの時見れなかった山容をまさかこんな形で見ることができるとは夢にも思わなかった。

ジャンダルムが近くなってきた。
e0284726_14132470.jpg

e0284726_14133195.jpg

こっち側の面が垂直じゃん。滑落したら何百メートルも岩に何度も激突しながら落ちるのか…形が無くなるなぁ。
警察『この亡骸はご主人でよろしいのか確認していただけますでしょうか。あ、損傷が激しくて判別が難しいかもしれません。目は細く、鼻は腫れてしまってますので…』
カミさん『あ、コレ旦那の素顔です…』
オレ『・・・(涙)』


5時40分、奥穂高岳山頂に到着
e0284726_14134873.jpg

いくつかの団体が写真を撮っていたが、ここには以前すでに組長と来たので重要度は二の次だ。
人が通らない岩の上にザックを下ろし、あらかじめ必要なモノを入れておいたアタックザックを出してそれを背負う。
風などで転がり落ちないような場所に大荷物をデポして、いよいよジャンダルムへ向かう。
e0284726_1414827.jpg

よし!行こう!と歩き出したら、タイミングよく4人のパーティーと出発がカブってしまった。
ま、いいかと後ろに着いて行ったが、途中で彼らの撮影タイムが始まったのでけっきょく前になった。
e0284726_14141831.jpg


横幅があった道も次第に狭く細く険しくなっていく。
e0284726_14143332.jpg

一息ついて見下ろすと上高地が見える。
e0284726_14144394.jpg

あれが河童橋であれが帝国ホテルで。あれが大正池で。曇ってる割にはよく見えた。

極細の下りでさらに前のパーティに追いついた。
e0284726_14145418.jpg

男性2人女性2人のパーティだった。オレの存在に気が付いて小声で道を譲るかどうか相談しているのが聞こえた。当たり前だが『無理だ』という結論に達し、行動を続行しはじめた。最後尾の男性が『遅くてすみません』と言う。

『自分もここは初めてで、速く行けないのでゆっくりどうぞ』と声をかけて見守る。
あれ?もしかしてここが『馬の背』なのか?

奥穂→西穂区間で最難関場所と言われる『下りの馬の背』。そうかぁ…ここなのかぁ。
e0284726_14412523.jpg

『足が届かない…』

二番目を下る女性が言った。伏せた状態で足がかりを探しているので自分の体で隠して足先が見えず、つま先の感覚で探している状態だ。

『あの岩に足かけようとするとぶら下がった状態になっちゃう』

三番目の女性がうつ伏せで腹を滑らせながら腕を伸ばして ややぶらさがった状態で岩に足をかけた。

『その岩ダメ!!』

先頭の男性が慌てて言った。足を乗せて体重をかけていくとグニュ~っと傾いていった。あぶねぇ、岩が抜け落ちそうだった。

何度かトライ&やり直しを繰り返して慎重に進んで行く。オレも待っている時間はパーティを見ていたり、景色をながめていたりした。自分の後ろを見ると、オレが最初に抜いたパーティが待機している。

そこそこな時間が経過する。ふと気が付くと、ジャンダルムの裾野からまるでバルサンでも焚いたかの様に、一気にぶぁ~っとガスが発生し、そのガスが山肌を駆け上がり、あっという間にガスに包まれた。
e0284726_14194536.jpg

e0284726_14462073.jpg

はい、『ボーナスタイム』終了。 山の神様ありがとう、曇り予報でこれだけ景色が見れたから充分です。


いよいよ自分の番。
アタックザックなので荷物が小さく、岩に引っかかりにくいのでうつ伏せにこだわらずに下る。靴の岩へのフリクションもよく効くので”でっぱりに足を掛ける”というのにもこだわらずに、滑りさえしなければ何も無い斜面に足をかけて降りるという半ば反則的な下り方をした。
昔気質の人には怒られそうだけど、自分にはこれの方が合ってると感じた。 

下りきってから見上げると後続のパーティが降りている。
e0284726_14201779.jpg

下から見た方が恐怖感と高度感があった。


馬の背を下りきったところで前のパーティが休憩に入ったので、オレはそのまま進んで行った。

ガスは濃くなる一方。
e0284726_14212499.jpg

手前のこの尖った岩、実はベラボーにデカいのです。なんつー場所だここは。晴れてたらどんな景色だったんだろう。
e0284726_14221450.jpg

垂直…とまではいかないが、落ちたらただじゃ済まないような場所を歩いて行く。かえって垂直の方が一気に下までの衝撃でひと思いに死ねるのか。なまじ傾斜が付いてると岩壁に何度もバウンドしながら落ちていくから…考えただけでもゾッとする。

岩壁のちょっとした棚を横移動。
e0284726_1422353.jpg

ガスのせいで下が見えないせいか、長くここにいるせいか、それともバカになったのかあまり怖くない。

ただ、ここの斜面だけは怖かった。
e0284726_14223212.jpg

浮石だらけの急斜面。
足のかかるすべての場所に絶妙な大きさの浮石があって、一つでも落とせば急斜面ゆえに止まることなく下まで落ちていくだろうし、途中に人がいれば全員ふっとばしのストライクになること確実だ。
オレがこの斜面を下りきった後、対岸の壁を登っている時に若者パーティがさっきの斜面を下ってたんだけど、上にいた子が落石を起こした。すぐ下の子がとっさにキャッチしたらしい。
『ナイスキャッチー!ぎゃははは!もう笑いが止まんねー』


…笑えねぇ、いやマジで。




若さっていいなぁ…ノリで乗り越えられるし、ノリで許されるし。



どうやらここはジャンダルムの肩らしい。
e0284726_14225215.jpg

もう山頂が近くに見える。ただ目の前の山肌には『×印』ばかりかいてあるのでここからは登れないらしい。裏に回って登るようだ。
反対側に回ると3人の男女のパーティが休んでいた。登り口がわかりづらかったので素直に聞いた。
『ジャン↑』を見つけ、登る。そこに取り付いてから山頂までは5分程度だった。





.
[PR]
by moriyart | 2017-09-16 14:23 | ジャンダルム・前穂高岳